イルカちゃんと働く!グリーグループの情シスが目指す「AIとの協働」とは?

2025年10月に開催された「Google Cloud 第4回 生成 AI Innovation Awards(現:生成AI事例アワード)」にて、グリーホールディングス株式会社 情報システム部(以下、情シス)が開発した社内向けマルチAIエージェントシステム「バーチャルサービスデスク」が見事、優秀賞を獲得しました。AIエージェントの代表キャラクターである「イルカちゃん」は、単なる業務効率化ツールを超え、社員に愛される存在となりつつあります。ここでは開発の経緯や、その裏側の努力を紹介するとともに、AIという最新技術をどう捉え、向き合っているか、AI活用推進チームの皆さんに伺いました。

菅原:グリーホールディングス株式会社 / ビジネス・テクノロジー本部 / 情報システム部 / AI活用推進チーム

2021年新卒でグリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社。データテクノロジー部に所属後、2023年に情報システム部へ異動。現在は業務システム開発チームと兼任しながら、最新のAI技術を使った社内向けツールやサービスの構築に携わる。

藤咲:グリーホールディングス株式会社 / ビジネス・テクノロジー本部 / 情報システム部 / AI活用推進チーム

2013年グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社。以来、情報システム部に所属。2020年より業務アプリケーショングループのマネージャーを務め、2025年1月からAI活用推進チーム、2025年7月より人事部と兼務。

沓沢:グリーホールディングス株式会社 / ビジネス・テクノロジー本部 / 情報システム部 / AI活用推進チーム

2012年グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社。インフラストラクチャ本部所属後、2016年に情報システム部へ異動。現在は業務システム開発チームのマネージャーとして社内向けアプリケーションの開発に携わる傍ら、兼任でAI活用推進にも力を入れる。

Google Cloud 生成 AI Innovation Awards」(現:生成 AI 事例アワード)とは

Google Cloudが主催し、Google CloudやGeminiなどの生成AI技術を活用した、企業・組織の課題解決に資する革新的な事例を表彰するイベント。多数の応募の中からファイナリストが選出され、最終審査(ピッチコンテスト)では生成AI活用の「革新性」「社会的インパクト」「将来性」を基準に、最優秀賞・優秀賞を決定します。第4回の大会で、グリーホールディングス株式会社の情シスはファイナリストに選出され、見事、優秀賞を受賞しました。

最終審査では、専門業務に特化したAIエージェントたちがチームを組んで、社員からのさまざまな問い合わせに対応する総合窓口「バーチャルサービスデスク」について、開発の経緯やデモ動画を用いた活用法、社内での活用実績を紹介。イルカちゃん(AIエージェント)との会話を織り交ぜたプレゼンテーションは、問い合わせ窓口業務の削減効果のみならず、親近感あふれるキャラクターがコミュニケーションを円滑にする効果なども評価されました。

イルカちゃんに社内のことを質問した画面(イメージ)

緊張から手応えへ!「第4回 生成 AI Innovation Awards」優秀賞受賞の舞台裏

ーー優秀賞受賞、おめでとうございます!最終審査は菅原さんが登壇されましたが、そのときのお気持ちを聞かせてください。



菅原:ありがとうございます。直前までとても緊張していましたが、壇上に上がってからは落ち着いて話すことができました。審査員の方が頷きながら聞いていたり、会場から笑いが起こったりして、伝えたいことがしっかり届いているという手応えも感じられました。



沓沢:会場で見守る私たちも緊張しましたよね(笑)。



藤咲:はい(笑)。ドキドキしながら見守っていたのですが、話し始めたら堂々とした様子で安心しました。

ーー最終審査はグリーグループ含め10社がファイナリストとして発表しましたが、他の企業の発表で印象に残っていることはありますか。



菅原:個人的には、決定木ベースの機械学習手法であるLightGBMをLLMと組み合わせて説明可能性を補ったという発表が、大学時代の研究テーマに近くて刺さりました。



沓沢:全体的にAIエージェント活用のレベルが上がっているという印象を受けました。単なるチャットボットの延長ではなく、複雑なコンテンツを生成するなど、多様なデータソースから分析・考察して提案まで行う高度なサービスが増えていると感じました。



藤咲:私は歴史ある企業が事業直結型でAIを活用している事例に圧倒されました。技術だけでなく、社会的意義まで考え抜かれていて素晴らしいと思います。



菅原:さまざまな企業が課題に対しAIを使ってどう解決するか向き合っている中、私たちの取り組みが認められ、優秀賞を受賞できたことはやっぱりうれしいです。一方で、最優秀賞を獲って、副賞のGoogle Cloud Next '26 ラスベガス ツアー※に行きたかったという悔しさもあります。

※Google Cloud Next '26…世界中からエンジニアが集まり、最新技術の発表を行う「クラウドの祭典」。

アワード当日の皆さんの様子。 表彰式後はブースにて、イルカちゃんたちのステッカーを配布しながら質疑応答の対応をされていました。

全員が兼務、それぞれの現場のリアルな課題をAIで解くチーム体制

ーー皆さんが所属する「AI活用推進チーム」は、いつ、どのような目的で発足したのでしょうか。



菅原:発足は2025年1月です。情シスは「ITでグループの成長を促進する」というミッションを掲げているのですが、さらにチームにおいては「AIの力で、人と組織の可能性を最大化し、高い生産性の維持向上に貢献する」というミッションを作成し、スタートしました。



藤咲:メンバーは全員、AI活用推進とは別の主務を持っていて、兼任で構成されているチームです。元々、情シスではAIに限らずITによるグリーグループ内での業務効率化を推進していますので、その一環として、今は特にAIに力を入れている状態です。



菅原:チームでは、週に一度定例会を開き、メンバーが興味を持ったAIのニュースや新しいツールなどの話題を持ち寄り、どう解釈し現場に落とし込むかなどを議論しています。それぞれの主務側の課題解決に生かすにはどうしたらいいかを検討する場という位置づけですよね。



沓沢:そうですね。「AI技術をどう活用していくか」という方向性を決めたり、活用方法を議論しています。私と菅原さんは業務アプリケーション開発チームに所属するエンジニアなので、AI活用推進チームから生まれたアイデアを生かしたシステムの開発を、主務側の業務として行っています。



藤咲:社内でAI技術の活用を進めるなかで、各現場では似たような課題に直面することがあります。そうした情報をAI活用推進チームで共有し議論することで、それぞれの主務の課題解決に繋げていく狙いもあります。例えば、請求書の情報を手入力しなければいけないという課題に対して、AI-OCR※を使って自動化する仕組みを開発したり、「AIを使ってみたいがよくわからない」といった現場からの声に応えて、グリーグループ向けのAI活用研修を行なったりもしています。「バーチャルサービスデスク」の開発も、顕在化した課題の解決を目指した取り組みです。

※AI-OCR…AI技術(機械学習・ディープラーニング)を活用し、紙の文書や画像から文字を高い精度で認識・データ化する技術・ツールのこと。

「バーチャルサービスデスク」が「イルカちゃん」である必要性

ーー「バーチャルサービスデスク」の前身となるシステムがあったそうですが、現在の形に至るまでには、どのような変遷があったのでしょうか。



菅原:2024年の初めから、情シスで社内情報の検索システムの開発をスタートして、同年10月頃にリリースしたのが「横断検索イルカちゃん」です。運用する中で「もっと新しい技術を取り入れて、対話の中で問題を解決させたい」という欲が出てきて、「イルカちゃん2.0」として新たな開発構想を検討し始めたのが2025年の1月くらい。大きな転機になったのは、同年の4月にラスベガスで開催された「Google Cloud Next '25」への参加です。現地で、AIエージェントを構築する新しいフレームワークの発表を聞き、「これで自分が思い描く世界が実現できる」と確信し、その熱量のまま帰国してすぐに「イルカちゃん2.0」の開発を本格化させました。



沓沢:もともと情シスではAI技術を使わない横断検索システムをつくっていたんです。その改善を進める中で、「AIを入れたらもっとうまくいくのではないか?」というアイデアが出てきて、そこから「イルカちゃん」が生まれました。最初からAIありきではなく、既存ツールの不便さを解消する手段としてAIがハマった、という感じです。



藤咲:それに加えて、情シスにはもともと有人のサービスデスクがあったり、社内に申請システムが複数あったりと、問い合わせ窓口が煩雑化していました。それらをまとめ、調べものの第一歩として「イルカちゃん」というAIエージェントを動かすことで、問い合わせ対応を効率化しようという構想から生まれたのが「バーチャルサービスデスク」です。

ーー「イルカちゃん」は、生成 AI Innovation Awardsの会場でも「かわいい!」と評判でしたが、AIエージェントとして、こうしたキャラクターを設定した理由を伺えますか。



菅原:親しみやすさを感じてもらい、問い合わせのハードルを下げることと、生成AI特有のハルシネーション(誤情報)への対策です。あえて少し幼い感じの憎めないキャラクターにすることで、ユーザーが情報を鵜吞みにせず、「完璧じゃないかも」「間違っていても仕方ない」と、一歩引いて見てもらえるような、心理的な緩衝材になることを意図しました。



藤咲:時には社内で情シスから従業員の皆さんに何かを案内したり、お願いしたりすることも。それがちょっと面倒だなと思うようなことでも、「イルカちゃん」という親しみやすいキャラクターが介在することで、受け入れてもらいやすくなるといった効果も期待しています。

ーーイルカちゃん以外にも複数のAIエージェントが存在しますが、そこにはどのような意図があるのでしょう。



菅原:単一のAIエージェントにあらゆる知識を詰め込むと、回答の精度が落ちる懸念があり、分野ごとに分けることで精度を担保したかったことが一つ。もう一つは、それぞれの分野に詳しいメンバーがAIエージェントの開発を行うことで、開発スピードの精度があがることです。そこで、ServiceNow(IT資産管理ツール)に詳しい沓沢さんが「サーモンちゃん」を開発し、人事業務に携わっている藤咲さんが「シャチくん」を開発するといったように、役割分担の上で疎結合にしていきました。

ーー「バーチャルサービスデスク」を活用している社員の方々からは、どのような声が寄せられていますか。



沓沢:情シスではグリーグループの社内ITの改善のために社内IT満足度調査を行っているのですが、そこでは、「気軽に質問できて、過去の具体的な回答も提示してくれるので助かっている」や、「イルカちゃんの口調がかわいらしくて和む」といったお声をいただいており、温かく受け入れられていると感じています。

目指すは「専属AI秘書」。人がすべき業務に集中できる環境へ

ーーAI活用推進チームの皆さんにとってAIはとても身近な存在だと思いますが、改めてAIを使って働くことをどう捉えているか教えてください。



藤咲:正直なところ、AIに対する「特別感」というのはありません。私たちのミッションは、あくまでITを通じて社員の生産性を最大化することで、そのための手段として、今いちばん優れているのがAIだという感覚です。人間がやるべき「ホスピタリティが必要な業務」や「創造的な仕事」に集中するために、AIができる雑務はどんどん任せていく。それぞれの得意分野で業務を進める同僚のようなイメージです。それが当たり前の風景になればいいなと思っています。



沓沢:同感です。申請業務のように、誰にとってもちょっと面倒なものを手間なく簡単にできるツールを提供し、すべての社員が本質的な業務に集中できる環境をつくることが、私たちの役割です。そのために今、もっとも成果を発揮する技術がAIです。ですから、この先AI以上の成果を生むものが出てくれば、そちらを積極的に取り入れていきたいと考えています。



菅原:そうですね。今は、単純に「AIってすごい!これを活用したい!」という気持ちがシステム開発などの原動力になっていますが、「AIを使うこと」を目的にせず、実務でしっかり役立てるようなバランス感覚は大切にしたいと思っています。 また、従業員の皆さんが最新の技術であるAIに対して抵抗のない状態をつくっていきたいですね。親しみやすく誰もが扱えるかたちで提供していくことが使命だと思っています。
理想は、社員一人一人に専属のAI秘書がいる世界です。社内のデータを学習した専用のAIが、会議の設定やメール・チャットの送信、IT資産の管理など個人に合わせて対応してくれるイメージです。




沓沢:PCの調子が悪いから交換したい」と話しかけたら、「このスペックでいいですか?では申請します」と、必要な手続きをすべて行ってくれるような(笑)。



菅原:そうですね。すべては無理でも、それに近い環境をつくりたいです。

ーー最後に、チームとしての今後の抱負をお聞かせください。



菅原:AIという技術を、誰もが親しみを持って使えるようにしていきたいです。個人的には「イルカちゃん」をもっと進化させて、声と体を持たせてVTuberのように社内モニターで動かしたいです(笑)。



沓沢:AIエージェントができることをもっと増やして、AIエージェント同士、つまり専門家間の連携ももっと強化して、利便性を高めていくことが当面の目標です。今はまだ開発途上であり、できることはさらに増えていくので、もっと複雑な業務も自動で完結できるように育てていきたいです。



藤咲:チームとしては、「情シスでこんなことを?」と驚かれるようなチャレンジを続けていきたいと思っています。AIの実用化にはトライ&エラーの繰り返しが不可欠ですが、グリーグループ全体に、新しい技術への挑戦を推奨してくれる風土があり、それが今回の「イルカちゃん」の誕生にもつながっています。失敗を恐れずチャレンジの機会を増やし、今回の優秀賞のような成果を出していけたらいいですね。



※本記事掲載の情報は、2025年10月30日に「Google Cloud 第4回 生成 AI Innovation Awards」へ登壇した時点のものです。