客席を熱くした舞台『ヘブンバーンズレッド』誕生に秘められたプロデューサーたちの想い

誰も想像しえなかった、ライトフライヤースタジオとKeyによるドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)の舞台化が実現。スタッフによる原作への深い愛と妥協なき挑戦によって、『ヘブバン』の繊細な世界観が再現され、2025年11月1日(土)~9日(日)にわたった東京ドームシティ シアターGロッソでの公演は、多くのお客さまにご鑑賞いただき閉幕しました。この舞台化にはどれほどの思いが込められていたのかーー。制作チームを率いた株式会社Office ENDLESSの下浦さまと、グリーグループの株式会社WFS(以下、WFS)の井上さんの対談をお届けします。

※以下敬称略

舞台『ヘブンバーンズレッド』エグゼクティブプロデューサー
下浦 貴敬:株式会社Office ENDLESS 代表取締役社長

在学中から演出家の西田大輔が率いるAND ENDLESS作品の制作に携わり、2011年に株式会社Office ENDLESSを設立。2025年に総合芸術学校ENDLESS ACADEMYを設立し、学院長として「次世代のエンタメを担う人材」の育成に努める。さまざまな舞台作品等をプロデュースしながら、近年では自身でも多数の作品の演出を行っている。
プロデュース作品
AND ENDLESS作品、ひとりしばいシリーズ、舞台『東京リベンジャーズ』、『ブルーロック』、『機動戦士ガンダム00』、『幽☆遊☆白書』、『リコリス・リコイル』他

舞台『ヘブンバーンズレッド』プロデューサー
井上 智哉:株式会社WFS / Business Development本部 / Business Development部 /IP & Game Bizグループ / IP & Game Bizチーム1

2021年に株式会社WFS入社。ライトフライヤーストアの運営担当を経た後、『ヘブンバーンズレッド』の共同原作者Keyさまとの窓口担当として、ゲームの制作現場でスケジュールや納品物などの進行管理や商品化の立ち上げを担当。舞台『ヘブンバーンズレッド』プロデューサーとして、キャスティングや脚本づくり、演出、グッズ制作、プロモーションなどに携わる。

『ヘブバン』をプレイして感じた舞台化の可能性

ーー舞台『ヘブンバーンズレッド』の全公演を無事に終えられて、今の率直な気持ちをお聞かせいただけますか。



井上:ホッとした気持ちと、終わってしまったんだというさみしい気持ちと両方あります。何よりうれしいのは、お客さまから大きな反響をいただき、何事もなくキャスト、スタッフ全員が笑顔で終えられたことです。



下浦:僕にとって舞台の本番があるのは当たり前の日常なのですが、舞台『ヘブバン』はまた一味違った、ある意味で非日常的でした。僕らが手掛ける2.5次元舞台はお客さまの9割が若い女性なのですが、舞台『ヘブバン』では男性のお客さまが多くみえられ、客層が全く異なっていました。そしてなにより驚いたのが、舞台の初日を迎えてから、日に日に客席の熱量が上がっていったことです。SNS上の書き込みもどんどん増えていくのを、僕はもちろん、井上さんも感じていたと思います。俳優たちも同様で、それが励みになって、舞台そのものもどんどん熱をおびていって。あの熱量の大きさは特別でした。


舞台『ヘブンバーンズレッド』のメインビジュアル

ーー今回の舞台化はOffice ENDLESSさまからのご提案だったそうですが、なぜ『ヘブバン』を舞台化したいと思われたのでしょうか。



下浦:今回、演出を担当した西田大輔さんとは、もう25年くらいの付き合いになるのですが、2年半ほど前に「『ヘブバン』って知ってる?やってなかったら、ちょっとやってみてよ。舞台もあり得るかなと思ってる」と言われたんです。それで、すぐにダウンロードしてやり始めたら、「なるほど!舞台もありだな」と感じて。ストーリーはもちろん、音楽やアクション、キャラクター同士の関係値にも舞台での可能性を感じ、西田さんとゲーム関係のコラボに詳しい伊藤さんと企画を練り、提案だけでもしたいと思ってお訪ねしました。

ーーご提案を受けて、社内ではどのような協議が行われたのでしょうか。



井上:WFSはもちろん、グリーグループとしても舞台制作に携わった経験はなく、さまざまな議論がありましたが、非常に前向きに捉えていました。それは、企画をいただいた際に、『ヘブバン』の大切にしている要素を汲んでいただきつつ、いかに舞台に落とし込むかなどを丁寧にご説明いただき、原作をとても大切にしてくださっていると感じたのが大きいです。舞台での譲れないポイントなども力説いただき、舞台化にかける強い思いを感じました。
私たち原作側としては、『ヘブバン』の魅力的な登場人物を、舞台という場で多角的に表現できる点に期待がありましたし、ゲームをプレイされているお客さまに『ヘブバン』の世界をリアルに体験いただける貴重な機会になると感じました。私個人としても、Office ENDLESSさまが携わられた舞台を観劇していたのもあり、是が非でもという気持ちでした。その後にKeyさまにもご相談したところ「ぜひ、やりましょう」と後押ししてくださって、本格的に企画が動き出しました。

原作の世界観はそのままに、舞台でいかに表現するか

ーー今回の舞台制作において、お二人はどのような役割を担われたのでしょうか。



下浦:僕らは原作をお借りして、それをどう演劇として表現するかを考え、舞台制作に関わるクリエイティブな要素や、それをつくるスタッフをまとめたり、調整したりする役割です。人間がやる以上、原作をそのまま舞台の上で再現することはできませんが、原作側として譲れない部分とか、守らなければいけないところもあるはず。それを舞台でどう表現したらいいかを井上さんと相談しながら、立体に落とし込み、演劇にするということをやってきました。



井上:私は、原作側の立場で『ヘブバン』の世界観を守るべきところと、演劇上の表現とのバランスを取っていくという役割で、原作側の考えをまとめて、いろいろご相談させていただいていました。他にも、『ヘブンバーンズレッド』公式生放送ヘブバン情報局で舞台の告知をしたり、グッズの制作に携わったり、制作スタッフの一員として、さまざまなことをやらせていただきました。


ーー舞台化するにあたって、強くこだわったシーンや、演出に工夫された点などを教えてください。



下浦:最初から、やりたい、やろうと決めていたのが生演奏シーンです。すごくハードルが高いと言われたのですが、ゲームの中でも重要な要素だということはわかっていたので、お客さまには生の演奏を聴いてほしいと思っていました。今回のキャストは全員オーディションで選んだのですが、楽器演奏ができる俳優を優先したわけではないので、演奏のクオリティについてはご心配をおかけしたと思います。



井上:確かに、生演奏すると聞いた時はうれしかった半面、すごく難しい曲なので、「本当に大丈夫ですか」というお話もしました。「でも、これをやらないと、舞台『ヘブバン』として意味がない」とまで言っていただいて感激しました。演奏のレッスンにも何度か立ち会いましたが、キャストの皆さんの頑張りがすごくて、どんどん上達していくんですよね。本番ではお客さまもすごく喜んでくださって、信じてよかったです。



下浦:演出でいうと、ゲームでは同じ動きを反復したり、連続したりするのも楽しいのですが、舞台だと飽きられてしまうこともあります。戦う少女たちのストーリーではありますが、何度も同じ戦い方をさせたくなかった。それは演出の西田さんも同じで、シアターGロッソというという劇場の特性を生かしてキャンサーを表現するために映像を使ったり、布を使ったり、いろいろと工夫をしました。演劇ってお客さまの想像によって舞台が成立する部分もあって、全部を舞台上で表現してしまうと面白みがなくなってしまうので、適度に想像の余地を残すようにしています。ビャッコも、ゲームの中のビャッコはちゃんと感情を持っている生き物で、それをどう舞台で表現するかとか、サイズ感とか、いろいろ考えました。



井上:「こんな風に表現するのか」っていう驚きの連続で、ビャッコについてご提案をいただいたときは、これまでの関係値もありますので、「すべて信じてお任せします」という感じでした。実際にできてきたものは想像以上のクオリティで、うれしくて何枚も写真を撮りました(笑)。


蒼井えりかに寄り添うビャッコ



下浦:井上さんにはキャストのオーディションにも立ち会っていただいて、最終的に全キャスト、全会一致という感じでしたよね。実はあの時に、目線がすごく合っているなと感じて、とても心強かったんです。ですから、脚本もごく初期の段階で、「ここからあと何十ページも削らなきゃいけないんですが」って言いながらお渡ししたんですよね。



井上:そうでした。おっしゃる通りかなりのボリュームでしたが、すごく原作を大切にしてくださっていると感じました。ゲームのシナリオと舞台の脚本って全然違うものですし、変に口出しをすべきではないと思ったので、どうしても気になるところだけコメントを入れ、基本的にはお任せしました。



下浦:僕らがやり取りする相手はほぼ井上さんお一人ですが、その後ろにたくさんのご関係者がいて、きっといろいろなことがあったと思うんです。でも、そういうことを僕らには感じさせず、原作側として守らなければいけないものもありつつ、舞台のつくり手のこだわりも大事に考えてくれて。やりやすい環境をつくっていただき、初期の段階からすごく信頼関係ができていた気がします。稽古場にも毎日のように来ていただくなんて、なかなかできないですよ。




井上:そう言っていただけるとうれしいです。原作側の人間があれほど現場にいることは通常ないことはわかっていたのですが、現場にいることで、ちょっと確認したいとか、聞いてみたいと思われたときにもすぐに答えられます。実際に私が現場を見て答えるのと、見ないまま答えるのでは、回答が変わることもあるかもしれません。現場にいることで、そうした不安も解消できますし、より良いものをつくるにはそうすることが一番かなと思っていました。加えて、『ヘブバン』のファンが2.5次元の舞台を見たときの違和感をいかになくせるかというところはすごく意識して見ていました。例えば、セラフの扱いについて、殺陣での扱い方などは基本お任せしていましたが、長時間持っているときはこうしてほしいとか、各キャラクターのちょっとした仕草とか。細かいことですが、全体としてすごくいいのに、ひとつの動きで「あれ?」と思われるのはもったいないので、そこはかなりこだわりました。

『ヘブバン』のなかで欠かせないアイテム、セラフ。 地球外生命体のキャンサーに唯一攻撃出来る手段として登場人物たちが扱う。

熱心な『ヘブバン』ファンの思いが、舞台を、客席を、熱くした

ーー舞台を鑑賞されたお客さまの様子もご覧になったと思いますが、どのようなお気持ちでしたか?



井上:2025年10月31日(金)のプレビュー公演で、一幕の終わりに泣いているお客さまがいらして、すごいものができたんだと感じました。その後も毎日劇場に入って、お客さまが帰られる際にお見送りをしたのですが、「いいものを見せていただきありがとうございました」とか、「舞台は初めてでしたが、見に来てよかったです」など、とても多くのお客さまから温かい言葉をかけていただきましたね。



下浦:驚いたのは、アンケートに記入してくださるお客さまがすごく多かったことです。アンケートって、制作側に直接届くものだと思って皆さん記入されるので、多くは批評か、「次回はこのキャラを出してください」といったリクエストみたいなものが多いのですが、『ヘブバン』のファンはそうじゃない。SNSでも日を追うごとに書き込みが増えていきましたが、アンケートのメッセージもどんどん熱っぽくなってきて、「よくぞ舞台化してくれた」「あのシーンに感動した」「何度見ても泣ける」といった、あふれる思いを何としても伝えたいという気持ちのこもったものが増えていって、その熱量に圧倒されました。



井上:本当にそうですね。多くのファンに喜んでいただけたことは何よりですが、これほど盛り上がったのはキャストの皆さんや、スタッフの方々が頑張ってくださったおかげです。ゲームを現実の舞台にするって、簡単には想像がつかないと思うんです。正直、私も最初は全然想像できなかったのですが、実際に目の前で人が演じて、映像や音楽と重なりあって、本当にとんでもない作品になった。それを、お客さまも感じてくれたのだと思います。




下浦:2時間半~3時間の舞台ですから、前後の移動を含めて4~5時間を費やして、心から満足して、その気持ちを伝えようとしてくれるお客さまがこんなにいるのはすごいことですよ。しかも、8~9割はゲームをやっていてストーリー展開がわかっているわけですよね。それでも感動してくれる、心が動いた。それだけで舞台化する意味があったと思います。



井上:おっしゃる通りです。WFS社内でも、「舞台を見て、こんなにいいものをつくっているんだって再認識しました」と言ってくれたり、社内チャットに長文の感想を書き込んでくれる人もいたりして、うれしかったですね。その一部はOffice ENDLESSさまにも共有し、キャストの皆さんにも「社内のスタッフの間でも好評だよ」って伝えていました。



下浦:俳優陣もSNSを見るし、直接「良かったよ」って言ってもらえるとパフォーマンスが上がるんですよね(笑)。

舞台化で新たなファンを増やし、さらに魅力を増していく

ーーこれまで数々の舞台化を実現されてきた下浦さまから見て、舞台『ヘブンバーンズレッド』の魅力は何でしょう。



下浦:最初にも言いましたが、お客さまの熱量の大きさだと思います。アクションも多いし、それこそ体力ギリギリのところまで攻めるというつくり方で、キャストやスタッフの最大限の力を引き出しているのですが、それ以上の熱量が客席側にあって、しかも加速度的に高まっていった。すごく特別なこととして記憶していますし、この先につながっていくはずと思わせるパワーを感じました。

ーー井上さんは、今回の舞台化を経て、ゲームをプレイされるお客さまの変化を感じることはありますか。



井上:コミュニティがすごく活発になりました。舞台の幕を開けると同時くらいに、「舞台、いいよ」といったコメントや感想がたくさん寄せられて、ちょっとしたお祭りみたいな感じでした。「舞台をきっかけにゲームを始めました」という方も非常に多いですね。

ーー『ヘブバン』という作品と向き合い、グリーグループと協業するなかで、下浦さまはどのようなことを感じましたか。



下浦:ゲームと舞台、ジャンルは違いますが、お客さまを楽しませることを生業にしていて、目指しているところは同じだと感じました。だから、初めからお互いに尊重し合うことができましたし、舞台を見にくるお客さまをどう満足させるかというところで、自然に同じ目線が持てたんです。ジャンルは違っても、「同じ仲間だよね」と思っています。本当に、すごく心地いい時間を過ごすことができて、きっと、この先にも何かあると思わせてくれました。



井上:ありがとうございます!ものすごく光栄です。この経験を糧に、長く『ヘブバン』を応援してくださっているプレイヤーの方はもちろん、最近ゲームを始めた方も、さらに楽しんでいただくのが私の次のミッションだと思っています。今回舞台を初めてご覧になった方も多かったと思いますが、今後も『ヘブバン』を通じて新たな体験をしていただいたり、その体験を発信したり、発信された情報を見てワクワクしたり、『ヘブバン』をより身近な存在として楽しんでいただく機会を増やしてきたいです。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

舞台『ヘブンバーンズレッド』 Blu-ray発売決定!!



下浦:「舞台は生で見るのが一番」といわれますが、Blu-rayだと違った楽しみがありますよね。キャストは客席の最後列まで思いが届くように演じていますが、繊細な目の動きや表情、しぐさなどは、後方からだとわかりにくいこともありますし、前方でも座席によってはきちんと見られないこともあります。キャスト自身の感情が高ぶってきたときの表情とか、高揚感あふれる演奏シーンなど、ぜひ、Blu-rayで確認してください。



井上:映像特典も楽しんでいただけますし、何といってもキャストの皆さんのキャラクター再現は解像度が非常に高いので、スポットライトが当たっていないところでも、すごくいい演技をしているんです。あらためて見直すと、「このキャラ、確かにこういうことするよな~」というのがたくさんあるので、ぜひ見つけてくだい。舞台をご覧になった方はもちろん、舞台を見逃したという人もお楽しみに!

舞台『ヘブンバーンズレッド』Blu-ray