ゲームは今や、国や地域、プラットフォームの垣根を越えて、世界中のユーザーに届けられるコンテンツとなっています。一方で、若いクリエイターが自分のアイデアを作品として形にし、実際に人に届けながら成長していく機会を、個人だけで得ることは容易ではありません。
そうした中、文化庁の補助金により独立行政法人日本芸術文化振興会に設置された「文化芸術活動基盤強化基金」を活用し、「クリエイター等育成プログラム」が始まりました。その一環として、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が実施しているのが、次世代クリエイター育成プログラム『Top Game Creators Academy』(トップゲームクリエイターズ・アカデミー、以下「TGCA」)です。
今回、TGCAを運営するCESAの担当者さまへメールインタビューを実施。
また、伴走支援アドバイザーの1人として参加する株式会社WFSの長野さんにもお話を伺いました。それぞれの視点から、プログラムに込めた想いと、若手クリエイターと向き合う中で見えてきた「ものづくり」の本質を紐解きます。

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
https://www.cesa.or.jp
コンピュータエンターテインメント産業に関する調査及び研究、普及、啓発、人材育成等を通じて、その振興を図り、国内産業の健全な発展と海外進出、また国民生活の向上に貢献することを目的に設立された業界団体。「東京ゲームショウ(TGS)」や「日本ゲーム大賞」、「CEDEC」の主催のほか、文化芸術活動基盤強化基金文化庁の基金を活用した次世代クリエイター育成プログラム「TGCA(Top Game Creators Academy)」など、クリエイターの育成や産業基盤の強化に向けた各種事業を推進している。
長野:株式会社WFS スタジオ本部 第1スタジオ 部長
3Dアーティストとして複数のゲーム開発に携わったのち、2012年にグリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)に入社。株式会社WFSにて『ダンまち〜メモリア・フレーゼ〜』のディレクターおよびプロデューサーを歴任。2021年『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚(まおりゅう)』の開発部長を務め、現在は新規プロダクトの開発統括を兼務している。
TGCA(Top Game Creators Academy)とは?
若手クリエイターが、将来的に世界で評価されるオリジナルのゲームIP・コンテンツを創出できるクリエイターへと成長することを目指す育成プログラムです。ゲーム業界の第一線で活躍するプロのアドバイザーによる「2年間の長期伴走支援」と、「国内外のゲームイベントへの出展機会」を提供し、それぞれのアイデアや技術力を最大限に活かせるよう、制作に寄り添いながら支援しています。
なぜ「2年間」の伴走支援なのか。クリエイター自身の「判断軸」を育てる
ーーTGCAでは、なぜ2年間という長期の伴走支援を行っているのでしょうか。

CESA担当者:まず本事業の背景として、TGCAが活用している文化芸術活動基盤強化基金の「クリエイター等育成プログラム」自体に、次代を担うクリエイターを複数年度にわたって継続的に育成していくという考え方があります。TGCAでもその趣旨を踏まえたうえで、ゲーム分野でクリエイターの成長を支援するにはどのような仕組みが必要かを検討し、2年間の伴走支援をプログラムの柱としました。
ゲーム制作は、短期間で知識や技術を学べば完結するものではありません。実際にアイデアを形にしていく中で新しい課題が生まれたり、第三者に遊んでもらうことで初めて気づくことがあったりします。また、制作を始めた時点では理解できなかったアドバイスが、経験を積んだ後になって初めて、自分自身の課題として実感できることもあります。だからこそ、一定の時間をかけて制作を続けながら、それぞれの進捗や課題に応じて支援することが重要だと考えています。TGCAで特に大切にしているのは、アドバイザーが答えを与えるのではなく、クリエイター自身が考え、試し、時には失敗しながら、自分なりの判断軸をつくっていくこと。その過程に継続して伴走することです。
ーーアドバイザーには、どのような役割を期待していますか。

CESA担当者:まず本人が何をつくりたいのか、何を面白いと思っているのか、今どこで悩んでいるのかに耳を傾けることです。アドバイザーは、長年ゲーム制作の第一線で経験を積んできたからこそ、多くの知識や成功・失敗の経験を持っています。ただ、その経験をそのまま若いクリエイターに当てはめたり、「こう作るべきだ」と正解を提示したりすることが、必ずしも本人の成長につながるとは限りません。本人の考えを聞いたうえで、問いや助言を届ける。そして、最終的に作品について判断するのはクリエイター本人です。アドバイザーには、その判断を代わりに行うのではなく、本人がより良い判断をできるように支える存在であってほしいと考えています。
「まずは1本、完成させる」。現場で感じた、ものづくりの難しさ
そんなTGCAの伴走支援アドバイザーの1人が、WFSでゲーム開発に携わる長野さんです。
長野さん自身もゲームをつくるクリエイターであり、普段はチームを預かる立場でもあります。今回担当したのは、参加者の中でも特にゲーム制作の経験が少ない2組。経験豊富なクリエイターを支援するのとは違った難しさがあったといいます。
ーー実際に参加者と向き合ってみて、いかがでしたか?

長野:正直、最初は「自分でいいのかな?」と思いました(笑)。でも結果としては、やってよかったと思っています。今回、私が担当している方たちは、まだゲームをつくった経験がほとんどないところからのスタートでした。なので、普段のゲーム開発とは違って、「ゲームをつくるって、最初はどんなところから考えていたっけ?」というところから一緒に考えていく感覚でした。自社の新卒メンバーを見るような感覚に近いかもしれません。また、参加する以上、教える相手のためになりたいというのは当然あるんですけど、それよりも、自分自身が勉強になるというところで、日々勉強させてもらっています。それが今後の仕事にも生きてくるかなと思っています。
ーーWFSでのゲーム開発やチームマネジメントの経験は、どのように活かされていますか?

長野:まずは、ちゃんと「終わり」を見据えることですね。2年間という期間の中で、せっかくなので、まずは1本完成させましょう、と話しています。そのために、ゲームをつくるためのタスクを分解して、締め切りを自分たちでつくる。仕事であれば上司がスケジュールを切ってくれることもありますが、今回は最終的に制作の責任を負うのはクリエイター自身です。自分で期限を決めて、それを守りながら制作する。これはゲームづくりだけでなく、仕事にも通じる大事な経験だと思っています。
「未来の自分」を信じすぎない。今できることから、一歩ずつ
ゲームづくりでは、アイデアが広がるほど、やりたいことも増えていきます。しかし、初めてゲームをつくる場合には、それが完成を遠ざけてしまうこともあります。
ーーゲーム制作経験の浅いクリエイターに対して、どんなアドバイスをしていますか?

長野:「未来の自分を、もうちょっと信じすぎないほうがいい」とよく話しています。初めてつくるのに、「これもできるはず」「あれも入れたい」と、今の自分よりかなり先の技術を前提に企画してしまうことがあるんです。なので、最初は今できること、頑張っても「今の自分の一歩先」くらいまでにする。例えば、ゲームの仕組みも最初は最低限の形にして、それだけで遊びとして成立するところまで持っていく。スケジュールどおり進んでいれば、そこから味付けを加えればいい。逆に遅れているなら、思い切って削る。まずは完成させることを優先しています。ゲームづくりには、一つの正解があるわけではありません。だからこそ、「この方法でやってみよう」と自分が思ったなら、まずはそのやり方で進んでみる。やってみて違ったら、そこから変えればいいと思っています。
「作る、届ける、反応を受ける、そしてまた作品に反映する」。世界への挑戦も成長の機会に
TGCAでは、制作だけでなく、国内外のゲームイベントへの出展も重要な取り組みの一つとして位置づけています。
作品をつくっている本人や身近な人だけで見るのと、実際に幅広いユーザーに遊んでもらうのとでは、得られる気づきが大きく異なります。特に海外では、言語や文化的な背景が異なる人に作品を遊んでもらうことで、自分たちの「面白い」がどのように伝わるのかを知る機会にもなります。
ーー世界に向けて作品を届けるうえで、どんなことを意識していますか?

長野:まず「このゲームの面白さが、どういう人に響くのか」というところは考えておいたほうがいいと思います。海外のイベントに出展するとなると、ただゲームを完成させれば終わりではありません。3~10分程度のプレイでも「このゲームはこういうものなんだ」と体験してもらう。そのためには、やりたいことを全部入れるのではなく、優先順位をつけていくことが大切です。イベントへの出展も、単に「世界に出る」ことがゴールではありません。実際に遊んでもらって、反応を受けて、それをまた作品に反映する。その経験そのものが、クリエイターの成長につながるのだと思います。

CESA担当者:「作る、届ける、反応を受ける、そしてまた作品に反映する」というサイクルをプログラムの中で回せるようにすることを意識しています。イベント出展は、そのための実践機会の一つです。全員が同じ工程、同じペースで進むことを目的としているわけではなく、それぞれの作品や課題に応じて、適切な挑戦の機会をつくっていきたいと考えています。
1本完成させることで、次の景色が見えてくる
ーー「まずは、1本完成させる」ことを重視するのは、なぜでしょうか?

長野:1本完成させると、ちょっと景色が変わると思うんです。「やりきった」という自信にもなりますし、そこで得た経験が、次につながります。このプログラムが2年間で終わって、「もうゲームをつくりません」となってしまったら、もったいない。だから、1本目を成功させることだけを目標にするのではなく、その先も続けていけるようなアドバイスをしたいと思っています。

CESA担当者:TGCAでは、2年間のプログラムを通じて、クリエイター自身が「次に何をすべきか」を考え、自分で選択していける状態に近づいてもらうことを大切にしています。現時点で一つの成果だけをもって評価するのではなく、制作を続ける中で課題の解像度が上がったり、取り組むべきことの優先順位が変わったりすることも、成長の一つだと考えています。

「挑戦した経験そのものが、次の力になる」。次代を担うクリエイターへ
最後に、これからゲームをつくろうとしている若いクリエイターに、両者からメッセージをもらいました。

長野:今はUnityやUnreal Engineなど、個人でもゲームをつくれる環境がすごく整っています。だから、まずは「こういうものをつくってみよう」と思ったら、実際にやってみてほしいです。企画書では伝わらないことって、すごく多いと思うんです。実際につくってみることで、結果だけではなく、その過程も自分の経験になります。何か一つモノをつくってみると、ゲームの職種に限らず、自分が何に向いているのかも見えてくると思います。企画が好きなのか、プロジェクトを進めるのが好きなのか、デザインが好きなのか。まず1本つくってみる。そうすると、いろんな扉が開く可能性があるんじゃないかなと思います。

CESA担当者:ゲーム制作には、技術や知識ももちろん重要ですが、その出発点には「自分はこれを面白いと思う」「こんな体験を誰かに届けたい」という、クリエイター自身の思いがあると思います。自分のアイデアを実際に形にし、人に遊んでもらい、思ったような反応が得られないことも含めて、また制作を続ける。その経験そのものが、大きな力になっていくのだと思います。ゲームをつくりたいという思いを持っている皆さんには、ぜひ自分のアイデアを形にし、人に届けることに挑戦してほしいと思います。その挑戦の先から、これまでにない新しいゲームが生まれてくることを、CESAとしても楽しみにしています。
