『ヘブバン』第五章後編|ゲームデザイナーとアーティストが語る、心を動かす演出の裏側

2025年12月、ついに幕を開けた『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)メインストーリー第五章後編「追憶の乙女と新たな契約」。残酷で美しい物語の背景には、Key 麻枝 准さんが描くシナリオの熱量を、余すところなくゲーム体験へと昇華させるための現場の努力がありました。今回は、仕様設計や進行管理を担うゲームデザイナーと、視覚表現を司るアーティストのメンバーに集まっていただき、限界まで高められた演出を紐解き、ライトフライヤースタジオのものづくりの真髄に迫ります。

※本記事には、『ヘブバン』メインストーリー第五章後編のネタバレを含みます。

千葉:株式会社WFS / Game Design 1 チーム マネージャー / リードゲームデザイナー

2013年グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社、2022年に株式会社WFSへ異動。メインストーリーの開発リードとして、シナリオから開発の設計図となるプログレスチャートを作成し、シーンごとの3D・2Dの使い分け、スチルの効果的な使い方など開発方針を決定。全体のスケジュール管理、社外の協力会社などとの窓口も務める。

菊岡:株式会社WFS / リードゲームデザイナー

2022年に株式会社WFS入社。コンテンツディレクターとして、ゲームの新機能開発や、物語全体の設定に齟齬がないかを精査する役割を担う。第五章後編では、自由時間内コンテンツ(ミニゲーム・交流)の企画・監修、白河ユイナの回想シーンのディレクションを担当。

杉山:株式会社WFS / 2Dアート 3チーム マネージャー

2022年に株式会社WFS入社。2Dアート キャラクターチームのマネージャーとして、ゲームデザイナーと連携して社内外含めたリソース管理・スケジュール管理を担う。同時に、プロジェクトマネージャーとして現場の課題解決や、必要とされるアセット量に対し品質を向上するための組織体制の構築に注力。

駿河:株式会社WFS / 2Dエンバイロメントチーム マネージャー

2013年グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社。2021年に株式会社WFSに異動。2Dアート 背景チームのリードとしてリソース管理・スケジュール管理・制作物の品質管理などを担う。また、第五章後編では広島から山口までの洞窟(開発名称:カルスト)、小月から関門海峡までの道中のコンセプトアートを制作。

リリース後、お客さまの反応に対する喜びと安堵

ーー『ヘブバン』メインストーリー第五章後編のリリースを待ちわびていたお客さまの声も届いていると思いますが、いかがですか。



千葉(ゲームデザイン):「手塚と七瀬のシーンから、最後の茅森と樋口のシーンまでずっと泣きっぱなしだった」というお声を見かけましたが、このシーンは設計段階からかなり考えてつくったので、そこに反応していただけたのはすごくうれしいです。
個人的に、ゲームはバトル操作など複数の要素で構成されるため、小説や映画などに比べると物語への没入感を維持し、感情を高めていただくのが難しいと思っています。『ヘブバン』にも存在するその課題に向き合い、第五章後編でも感情が最大化されるようシーンの流れを設計し、映像と音楽、ゲームを通して積み重ねてきた体験がひとつになることでお客さまの心を動かすことができたのではないかと思っています。



菊岡(ゲームデザイン):私は自由時間※のコンテンツでひと息ついて楽しめる感じを狙っていたので、「ミニゲームが今までと変わらず楽しい」とか、「ワチャワチャしたキャラクターの交流が楽しい」という感想をいただいて「よし!」と思いました。私がディレクションを担当した白河の回想シーンでは、過酷なシーンは徹底して過酷に描くことで没入感を出したいと考えていたので、「見ていてつらい」「つらすぎる」といった感想も、想いをきちんと受け止めていただけた気がしています。

※自由時間(フリータイム)...ストーリー進行中に定期的に発生する自由行動時間のこと。自分が選択したキャラクターを操作し、他のキャラと交流をしたり育成素材を手に入れたりすることができる。



駿河(アート): SNSで、「余韻がすごい」というコメントが多いのが印象的です。ゲームを閉じてしばらくの間『ヘブバン』の世界に浸っている、それほどの感動体験を届けられたのは大変うれしいです。私が担当している背景・コンセプトアートは、注目されることは少ないのですが、その中で背景や設定面にも目を向けてくださっている感想を見かけることがありました。ストーリーを通して『ヘブバン』世界の空気感までも一緒に味わっていただけているのだと、作り手として実感が湧き非常に励みになっています。



杉山(アート):第五章後編はこれまでのメインストーリーの中でもかなり深い内容なので、お客さまにどんな反応をいただけるか、不安な気持ちもありました。でも、リリースして1~2日のうちにゲームをクリアするだけでなく物語をしっかり読みこんで「このシーンに感動した」、「ここで泣いた」という感想をSNSに上げている方が多くて、うれしい驚きでした。リリースされるのを、本当に今か今かと待っていてくださるたくさんのお客さまのためにも、さらに頑張っていかなければという気持ちになります。

ゲームデザイナー、アーティストが執念を持って取り組んだ、シーンの数々

ーー皆さん相当なこだわりを持って制作に取り組んだと伺っています。具体的なシーンや工夫したことなどを伺えますか。



千葉(ゲームデザイン):第五章後編では手塚のドラマが重要になっているのですが、手塚のシーンは2Dで風景だけを見せたり、あえて顔を描かないというつくり方をしています。というのも、ラストで手塚が背負っている苦しみが明かされるので、そこに至ったときに初めて「あっ!あのときの手塚の気持ちは実はこうだったのか」と印象が変わる体験を狙ったためです。SNSでも、「最後まで見て、手塚の印象が変わった」というコメントが多くあり、意図した通りの物語体験を届けることができたと手応えを感じています。
また、物語上バスケの試合シーンを描く必要があったのですが、すべて2Dで制作をしているため、細かい設定を駿河さんと丁寧にすり合わせてつくったおかげで、齟齬なく感情が繋がるシーンになりました。



あえて風景だけを見せたり、顔を描かない手法を撮った手塚のシーン

細かい設定までつくり込んだバスケの試合シーン



駿河(アート):バスケの試合シーンで体育館の中の様子を複数のスチル(静止画)で表現する必要がありました。連続して見た際にバスケットゴールの位置が合っていないとか、進行方向がわからなくなるといった違和感が生じることは絶対に避けたかったんですよね。そこで、初めに体育館全体の上面図とカメラ位置の設定資料を作成し、各スチルの位置と見え方をそれぞれの制作メンバーへ共有しました。複数枚のスチルの制作は同時に行ったのですが、あらかじめ大枠の設定を固めておくことで認識の齟齬無くシームレスな一連の絵づくりができたと思います。

ーー白河の回想シーンをディレクションされた菊岡さんが特にこだわったのは、どのようなところでしょう。



菊岡(ゲームデザイン):試練を乗り越えた彼女が強くなったということに説得力を持たせるために、徹底してつらい状況を描くことにこだわりました。そこで、つらさってどういう表し方ができるだろうかと考えて、心理的な作用を考えると色の表現もあるなと思い、駿河さんに相談して色の変更をお願いしました。



駿河(アート):彼女が囚われている城の中は、当初のコンセプトアートでは暖かな光が差し込んでいました。シナリオ中で何度も口にしていた「寒い」という言葉や心理的な不安や恐怖を描くには大切な表現でしたので、光源の色味を寒色系に変えるよう、2D背景と3Dの制作チームとも連携して進めました。


【Before】元々城の中には暖かな光が差し込んでいた

【After】「寒い」という言葉や不安や恐怖を表現するために寒色系に



菊岡(ゲームデザイン):ほかにも、アートの皆さんには助けられました。拷問を受けて足に釘を打たれるシーンがあるのですが、椅子に縛られた様子を見せてお客さまにイメージさせた後、暗転させてセリフを発するようにしていました。でも、それだけでは拷問のすさまじさは伝わりません。とはいえ血を見せるような生々しい演出はしたくない。そのときに「影で表したらどうですか」という提案をいただき、「それだ!」と思いました。影で表現することで生々しくならず、動きで何が行われているかを想像させることができます。

ーー駿河さんが担当した背景へのこだわりについて、伺えますか。



駿河(アート):これまでの設定を引き継ぎつつも、新しい世界の広がりを印象づけることを意識しました。
具体的に言うと、『ヘブバン』の第四章後編で登場する赤い結晶と、第五章中編で登場した青い結晶、どちらも第五章後編に入れ込んだ上で新章の幕開けにふさわしいデザインにする必要がありました。そこで、後編の舞台である中国地方に実在するカルスト地形をベースに、キャンサーの生態や赤と青の結晶の要素を加えて「敵であるキャンサーがつくり出した景色が皮肉にも美しい」という見せ方にしています。また、キャンサーの特性に合わせて赤と青の結晶の配置にルールを設けて納得感を持たせています。


駿河さんが担当したコンセプトアートの一部



千葉(ゲームデザイン):イメージを絵にしてもらうことで、助けられることって多いんです。「こういう地形の中にいるキャンサーの動きってこうだよね、こういう特性があって、攻撃はこうで…」って、絵を見ながら対話をすることでボスキャンサーの設定がどんどん具体的になっていきました。細かい設定についてゲームの中で言及されることはあまりないのですが、ちゃんと詰めていない部分って後々違和感につながるので、細部まで一緒にしっかり詰めておくことはすごく重要だと思っています。



駿河(アート):私もそう思います。『ヘブバン』の世界に浸ってもらうためには、全体の流れが自然にできているっていうことがとても重要ですよね。ちょっとでも引っかかるところがあるとキャラクターの人間模様にノイズが入り、邪魔になってしまうと思うので、「これって?」と思うようなところをなくすことは意識していきたいです。



千葉(ゲームデザイン):ラストのスチル、あれもこだわりの一枚ですよね。最後の場面、茅森の「必ずこの星を救ってみせるよ。」という屋内シーンのセリフで終わります。シナリオにはこの先はありませんでしたが、茅森のこのセリフを受けて余韻を残せるシーンを入れたいと考え、杉山さん、駿河さんに相談して、ナービィが空を見上げているスチルを一枚、追加しました。セリフも説明もないこの絵はここまでプレイしていただいたお客さまなりの解釈で、ゲームの余韻を味わっていただけたらいいなと思っています。

より良いものを追求し、新たな仕組み、体制づくりも

ーー杉山さんは、アートチームのリソース管理やスケジュール管理を担われたそうですね。



杉山(アート):はい。スチル一枚でも、ディレクターがイメージしていたものと違ったり、シナリオを書いているKey 麻枝 准さんからの要望が加わったり、誰もがより良いものを求めるがゆえに、完成までに時間がかかることもあります。今回特に、ラストの手塚と七瀬のシーンは、社内のメンバーはもちろん、麻枝さんも大変こだわったシーンで、全員が納得するまで何度も修正を重ねました。その後の現場の調整は大変でしたが、最高のシーンが描けたと思います。



千葉(ゲームデザイン):杉山さんには、今回、あらかじめスチル制作の工数を整理していただいたことですごく助けられました。一枚のスチルに描くキャラの人数や使う色数などによって制作工数が異なり、これまではその都度、確認して進めていました。でも、こういう内容ならこのくらいの工数というのがわかる資料を用意していただいたおかげで、全体を見ながら、こっちの工数を減らして、ここに一枚追加するといった調整がしやすくなりました。

ーー品質向上のための新たな仕組みも導入されたと伺いました。



杉山(アート):制作する物量が多く、アートディレクターがすべてに対して細かいところまでチェックするのは無理があるため、スチルリードイラストレーターというポジションをつくり、アートディレクターのチェック前にリードの中間監修を行う体制をつくりました。リードが一枚一枚を細かく精査し品質の底上げを図り、アートディレクターは全体を俯瞰して世界観の統一などの最終チェックに徹することで、全体の品質向上に役立ったと感じています。

お客さまの期待を越え続けるために。この先の『ヘブバン』への想い

ーー2026年2月に『ヘブバン』は4周年を迎えました。この先もお客さまに「新しい驚き」を届けるためにこだわっていきたいことを教えてください。



千葉(ゲームデザイン):お客さまの期待を超えるものをお届けするのが私たちの使命だと思って、今後も頑張っていきます。開発リードとしては、メインストーリーに関わっている一人一人のこだわりとか、チャレンジをやり尽くせるような環境をつくっていきたいです。スタッフ全員のこだわりをすべて詰め込んで、お客さまに届けていきたいと思っています。



菊岡(ゲームデザイン):通勤や通学の電車の中で『ヘブバン』を楽しんでくださっている方とか、受験勉強の合間に『ヘブバン』をプレイすることで、受験を乗り越えたという方もいらして、本当に多くのお客さまがこの4年間を『ヘブバン』とともに生きて、茅森をはじめとするキャラクターたちと一緒に旅をしてきてくださったことに感謝しています。ちょっと大げさな言い方をすると、人生の一部にもなっているのではないかなと思っていて、そういうお客さまの期待に応えられるよう、さらに細部にこだわり続けていきます。



駿河(アート):回を重ねるごとにハードルが上がっていると感じているのですが、お客さまの期待にしっかり応えると同時に、期待の斜め上くらいを狙って、ちょっとした驚きにつながる工夫をしていきたいと思っています。個人的には、『ヘブバン』の世界のスパイスになるようなアイディアをいつでも出せるように、幅広くアンテナを張っていきたいです。



杉山(アート):『ヘブバン』の開発に関わっているメンバー、中でも、2Dアートのメンバーが胸を張って「私は『ヘブバン』の制作に携わっています」と言える組織をつくっていきたいです。メンバーの最大限の力を引き出すことが私の役割だと思っているのですが、『ヘブバン』のクリエイティブを担っているという自信が今後の作品に反映され、それが最上の体験としてお客さまに届いたら最高です。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

ヘブンバーンズレッド4th Anniversary Party!を開催しました!

2026年2月、『ヘブンバーンズレッド』はリリースから4周年を迎え、1月31日・2月1日の2日間、ベルサール秋葉原にてリアルイベントを開催しました。
お越しいただきました皆さま、ありがとうございました。



会場の様子。ミニアトラクションやグッズの販売を行いました


『ヘブバン』声優陣の皆さんによるトークショーも大盛り上がり!